適正数を維持して手間かけない!小さなクリニック向けアナログ在庫管理導入ステップ14

先日、在庫管理改善の提案書を作成していたとき、最低限やるべき作業のフローチャートを作成したら検討すべき項目の多さに改めて驚きました。
在庫管理がザルになれば、買いすぎたり欠品、機会損失や管理コストがふくらみます。とはいえ時間も人手も限られるので、やみくもに在庫管理に手間をかけすぎたくはないところ。
ここでは在庫管理システムを入れる前のクリニックでよくあるお困りと手順の考察、そして知っておきたいアナログ管理のちょっとしたコツをご紹介します。

在庫管理でよくあるお困りやトラブルは?

下記はいずれも、経営者・従業員から在庫がらみで困った!とリアルにお伺いしたものです。

実際に伺ったことのある在庫管理のお困り例

  • 感覚的に発注していて発注の基準もない。品切れや過剰在庫が常態化している
  • 発注伝票がすぐに見つからない。業者ごとに発注方法が違って手間がかかる
  • 発注するのもスタッフが都度メモ書きで業者に正式商品名と個数を伝えており、必要以上に時間がかかっているらしい
  • 何となく在庫管理の必要性は感じるが、どこから着手すべきかわからない
  • 小さな在庫が奥行の深い棚の奥に落ちてしまっていて、気がつけば使用期限切れ
  • 久しぶりに整理整頓したら、使用頻度低の同じ種類の大ボトルが大量に発掘された
  • スタッフAが発注したことを知らず、スタッフBまで同じ商品を発注してしまった
  • 送料無料を気にして大量発注、置き場所の確保に苦労している
  • スタッフが在庫を無断持出ししている可能性がある
  • 購入してみたものの数年動きがない在庫がある。そしてスペースが埋まっている
  • 12個が1パッケージになっている製品について、人によりカウント方法が違うために本来の在庫数がわからなくなってしまった
  • 買いすぎた在庫を長期保管。日光に当たっていたらしく在庫が劣化してしまった
  • 業務用冷蔵庫内に仕込みのために買っておいたお肉。オーナーの奥様が自宅用として持って帰ってしまった
  • 場所がなくて商品在庫を通路に段ボールで床置き。うっかり従業員が蹴り飛ばして破損
  • 倉庫の3分の1が先代の私物で占められていて、商品や備品を置くスペースがとても足りない

正直、これはほんの一部と言えるでしょう・・・あなたのクリニックで心当たりはありますか?

小さなクリニック向け:アナログ在庫管理14ステップ

①同種の在庫は1か所に集約、種類と個数を一目で把握できる状態に

まずこれができていなければ数も在庫の種類も現状把握ができません!
「どこに」「何が」「何個」あるのかスタッフ全員が一目で把握できるよう、まずは現物を選別分類して見える化が必要です。
段ボールから現物を出し、在庫用のスペースを確保して同種の物を1カ所(分散しても2か所までにとどめたい。ユニット脇&ワゴン除)に並べ、棚板や商品箱にラベルを貼りましょう。できれば扉がないオープン棚・フタがない収納用品がお勧めです。

②在庫一覧表を作成(簡単でよい)

商品ごとの在庫数を把握するために、まずは在庫一覧表を準備します。この段階では商品名が書かれており、在庫数が記入できる欄があれば十分です。

③在庫棚卸(現状把握)

管理対象のボリュームにもよりますが、まとまった時間を確保して棚卸=商品ごとの個数記録を行いましょう。バーコードリーダーなどがなく手作業の場合には、2人1組で作業を実施すれば、1人で実施するときと比較し作業が2.5倍速になります。

・Aさん:現物をカゴから出し、カウントして口頭で数字を言い、元に戻す 
・Bさん:一覧表から商品名を見つけて言われた数を記入)

④担当者・出庫数を数える曜日時間を決定

在庫を管理する担当者を決めます。発注も担当される方が望ましいです。

普段の業務中に都度、在庫数の確認や発注をしていると業務が中断されるため、週1回(少なければ隔週・月1でも良い)まとめて実施し、そのとき気づいた不足分の発注も済ませてしまいましょう。
私がメーカーで在庫管理を担当していたときには、月曜17:00-在庫チェックの時間と決められていました。

⑤最低4回分モニタリング。各商品の出庫記録をとる

最低4回分の出庫数をモニタリングして、記録をとっておきます。

⑥発注点を決める

4回分を4で割れば、1週間(1か月)あたりの平均出庫数が判明し、どのタイミングで発注すればよいかの参考になります。〇個になったら発注、という目安を商品ごとに決めましょう

⑦在庫管理手法の決定(一覧表・カンバン方式など)

在庫管理の手法も複数あります。商品数が多くなければ現品に直接札をつける「カンバン方式」も有効な一手ですが、在庫数0になっていると気づきにくい・在庫全体や履歴が俯瞰しにくそうというデメリットもあります。一覧表方式であれば全商品・商品ごとの詳細情報まで管理できますが、表の数と実際の個数を付け合わせたり、表をこまめに修正する手間も生じます。

カンバン方式、阿品ファミリー歯科さんのイメージがわかりやすかったです(右の画像もお借りしました)

また、業者が確実に即納してくれる、サービス提供に致命的とはいえない、売れ筋ではない、手間を考えたら少しの在庫損失は許容できるなどの場合は、①現物の整理整頓+⑥発注点 だけで十分な場合もあります。重要度に応じて適切な手法をお選びください。

⑧在庫管理対象を決定

どこまで在庫管理をするのか?「管理する範囲」を明確に区切り、関係者に周知する必要があります。

例えば、物販のみにするのか、サービス提供のために消費する物品まで対象にするのか?
(サービス提供に消費する物品の例:診療指導用の歯ブラシ・歯間ブラシ・歯磨き粉等)

販促品・試供品・デモ品・クライアントへの貸出品の扱いはどうするの?等が挙げられます。

⑨在庫管理ルールの細目決定(入出庫・在庫消費時・セット商品等)

在庫管理対象となる商品について、例えば

  • 商品が入ったときに実施する処理
  • 商品が売れたときに実施する処理
  • 商品を使用(消費)するときに実施する処理
  • 商品をバラしたときに実施する処理
  • 商品ごとに扱う単位数

を決めておく必要があります。たとえば、商品入荷の際には在庫一覧表の個数を更新し、開梱して現物を指定の場所に置く、等が挙げられます。

やっかいなのはパッケージ商品やセット品をバラしたときの扱いで、たとえば業者から12個入りのパッケージで入荷し、クリニックで1個ずつ販売するための処理方法を予め想定する必要があります。
1つのパッケージが入荷したときに「12個入荷」という処理にするのか?パッケージ1つとして処理した後、パッケージを開封した時点で1パッケージ分を全部消費した扱いにするのか?ここは医院により判断が異なると思われます。

⑩従業員へルール伝達・協力依頼

これが一番厄介で時間がかかる部分かもしれません。在庫管理・現物に携わる関係者全員に今まで述べてきた①~⑨の情報共有をし、レクチャーを行います。懸念点はないか・省ける処理がないかなどの話し合いも行うと良いでしょう。在庫管理の方法はマニュアル等で明文化しておくことをお勧めします。

⑪備品準備

運用する在庫管理方式によって、必要な部品を判断して揃えます。例えばカンバン方式なら、各在庫に貼る紙や、業者への発注状況が一覧できるホワイトボードなどを準備します。

⑫在庫のゾーニング(棚番決定・マップ作成)

これは商品点数によりますが、ある程度在庫数が多い場合はどこに何があるのか、ゾーニングマップ(配置図)を設けると良いでしょう。新人への情報共有・現物入出庫に役立ちます。また、どの棚の上から何段目ということを把握しやすくするため、棚番号・棚板番号をふるのもおすすめです。

⑬一覧表方式:棚番・品番を一覧表に反映

一覧表方式を採用する場合は、一覧表に併記したら便利な項目を追記します。
例えば

  • 販売価格
  • 仕入価格
  • ロケーション番号(棚番号・棚板番号)
  • 注意事項

⑭運用開始、PCDA

新しく決めた方法で運用開始します。最初のうちは想定外が多発するのも当然!!頻発する課題に関しては、関係者間で相談して運用方法を見直します。初期段階は仕組みに固執するより、現状に対して仕組みを柔軟に変えるのが良いでしょう。

在庫管理・POSシステム導入を検討している医院様へ

在庫管理システム導入はコストがかかりますが、販売時や入出庫時の管理がラクになり、販売トレンドや売上高・仕入コスト、売れ筋・死に筋商品も数字で瞬時に把握できます。
スタッフ様が慣れて軌道に乗れば、日々の在庫管理や経費削減にプラスになることでしょう。

一方で、システム導入・移行の際には元となる商品情報やデータの整備が不可欠になるため、業務量が一時的に増すことが予想されます(私もメーカーで経験しました)。
今まで触れてきた項目のうち、少なくとも①~⑩、⑬は決める・実施する必要が出てくると予想されます。


なお、歯科医院向けに使える在庫システムも少なからずありそうです。特徴や運用コストも参考にしながら貴院にあわせたサービスをご検討ください。下記は在庫システムの一例です(情報入手したら随時追記する予定)

SmartMat

商品の重量を計測しての自動発注システムまで装備。一度商品説明を伺ったことがありますがスキがないイメージ。料金体系もシンプル、歯科医院への導入実績も多いと伺っています。

まとめ

在庫管理が必要となる物品や必要な精度・手間は、目的に応じて変わります。まずは在庫管理の目的を明確化して、どんなトラブルを回避したいか、管理を通じて最低限何を実現したいかを決めましょう。
目的に応じた手法が導入できれば、余計な手間や費用をかけすぎずにクリニックに最適な運用が可能になります。

今日もここまでお読みくださりありがとうございます。